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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)279号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人竹下伝吉、同山田利輔、同青木仁子の上告理由第一点について

弁済供託は供託者と供託官との間で結ばれる寄託契約の性質を有するが、その私法上の主たる効果は、供託者の被供託者に対する債務の消滅であり、弁済供託の効力の有無は被供託者との関係で決せられるのであるから、供託者が債務者本人の代理人としてする意思で、しかし本人のためにすることを表示することなく供託をした場合であつても、被供託者において本人のためにされたものであることを知り又は知りうべきであつたときには、右弁済供託は本人より被供託者に対するものとしての効力を有すると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、本件各供託は、被上告人昭が自己の名でしたのであるが、同被上告人は土地賃借人である亡父軍治の代理人としてその賃料の支払のためにこれをしたものであること、被供託者である上告人において右の事情を当然知りえたものであることは、いずれも原審の適法に確定するところであり、右事実関係によれば、本件各供託は亡軍治の上告人に対する賃料支払としての効力を有するものということができ、これと同趣旨の原審の判断は正当である。所論は、独自の見解に基づいて原判決を非難するものにすぎず、論旨は採用することができない。

同第二点について

原審が適法に確定した事実関係に照らすと、所論賃借地の無断転貸につき賃貸人に対する背信的行為であると認めるに足りない特段の事情が存在するとした原審の判断は、正当である。所論は、原審の認定外の事実を前提とし、又は独自の見解に立脚して原審の判断を非難するものであり、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下田武三 裁判官 藤林益三 裁判官 岸 盛一 裁判官 岸上康夫 裁判官 団藤重光)

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